治療メニュー

EMDR

アメリカ人の心理学者であるフランシーン・シャピロが1980年代に開発した技法です。標準化されたアルゴリズムをベースに、世界中の心理学者、セラピストが研究を重ね、次々と新しいテクニックが加わっています。その方法について、ざっくりと言ってしまうと、トラウマ的な記憶のイメージとともに眼球運動を行うと、その記憶をめぐる固定していた認知や感情や体の感覚などが変化して、新しい記憶のネットワークが形成されるということになります。具体的には、その出来事をめぐる全く異なった認知が現れたり、苦痛だった感情が楽になったり別の感情に変化していったりします。実際は眼球運動だけでなく、両耳から交互に音を入れる、体の左右対称な部分を交互にタッピングするなど別の「両側性刺激」でも同様な効果をあげられることが分かっており、これらの両側性刺激がなぜそのような効果をもたらすのかについても、神経生理学的な研究が進んできています。この技法が優れていると私が感じるところは、人間の認知(物の見方考え方)だけでなく、感情や身体感覚にも同時に同等なレベルでアプローチしているところです。ですから、「頭では分かったけど、症状は全然変わらない、つらさは変わらない」などと感情や身体感覚が置いてきぼりになることはありません。また、変化の主体になるのはあくまで患者様、クライアント様であり、セラピストの側が一方的な解釈を押し付けるようなことは通常ありません。要は患者様の自己治癒力を促進する治療ですので、他の精神療法と比較して、変化の起きるスピードが速いのです。もう1つの特性は、治療が適応外になる条件はほとんどないことです。パーソナリティ障害、発達障害、軽度の知的障害、統合失調症なども、トラウマ症状があれば、治療の対象になります。年齢制限もありません。解離がある方の場合は、EMDRによる解離症状の悪化の可能性があるため、注意が必要になりますが、十分の準備をして臨めばおそれることはないと思います。

TFT(思考場療法)

アメリカの心理学者ロジャー・キャラハンがキネシオロジー(タッチフォーヘルスの項を参照)の影響を受けて開発したセラピーです。体表にある経絡(「気」の通り道)上のツボを、いくつかピックアップして一定の順番で叩くことで症状の改善が得られます。タッピングするツボを決めるには、アルゴリズムによる方法と、「診断」による方法があり、前者は自己セラピーが可能ですが、後者はツボを決めるのに、セラピストによる「筋テスト」が必要です。この一見摩訶不思議な治療の優れた点は、5-15分程度の短い時間で結果を出せることで、時に驚くような効果を発揮することもあります。最悪でも「効きませんでした、ごめんなさい」というだけで、何の副作用もありません。なお、タッピングはクライアント様御本人にやって頂きますので、セラピスト側からのタッチが必要なのは、「筋テスト」でクライアント様が伸ばした腕を押す時のみになります。

自我状態療法

アメリカの精神分析家で催眠療法家だったワトキンス夫妻が開発した自我状態療法では、人間の心はいくつかの「パーツ」(部分)あるいは「自我状態」から成っていると考えます。そう言うと解離性同一性障害(昔で言う多重人格性障害)のような極端な例を思い浮かべてしまいますが、実は普通の健康な人にも当てはまることなのです。例えば、学校でくそ真面目な態度で授業をしている先生が、家に帰って子供やペットの前では赤ちゃん言葉で喋っているとすると、その先生は職場と家で違うパーツを前面に出していることになります。一人の人間の中のいろいろなパーツの間で、人生に何を望むかについて矛盾が生じると、その人は葛藤を解決できずに神経症的な状態になって、いろいろな症状を呈することになるかもしれません。自我状態療法は、そうしたパーツ間の対話を促進する方法であり、心の葛藤の解決や、原因の分からない体の症状の解消に役立つかもしれません。なお、パーツの間に記憶の障壁がある場合は「解離」という状態であり、パーツが入れ替わる前後で記憶が失われ、「健忘」症状を残します。自我状態療法は解離性障害の治療としてももちろん力を発揮します。

マインドフルネス

もともとは「気づき」を意味する仏教の古典語(パーリ語)「サティ」の英語訳として定着していましたが、アメリカの分子生物学者であったジョン・カバットジンが「マインドフルネス・ストレス逓減法」を発表してから注目されるようになり、DBT(弁証法的行動療法)やACT(アクセプタンス・アンド・コミットメント・セラピー)を初めとする新しい世代の心理療法のほとんどに取り入れられています。また、グーグルなど大企業の社員研修にも取り入れられるなど、世間的にも関心を集めています。未来への心配や、過去の反芻から現在という一瞬に立ち戻ること、心や体に起きていることをいいとか悪いとかジャッジ(判断・審判)せずに、ただ観察すること、など、その基本的な理念の重要性はいくら強調しても足りません。

ヨガ

5千年の歴史をもち、現在世界で何百万人もの人が実践しているヨガについて、改めてここで説明する必要はないかと思います。20世紀以降はアイアンガーらの現代的な指導者によって数多くのアーサナ(ポーズ)が確立され、健康増進法、ストレッチ法としてインドから欧米・日本へと広がっていきましたが、古代におけるヨガの在り方は瞑想体験と結びついたスピリチュアルなものでした。仏教の開祖であるブッダも古代における重要なヨガ行者の一人であったとみなされています。トラウマとの関連で言えば、PTSD治療の世界的拠点であるマサチューセッツ州のトラウマ・センターでも「トラウマ・センシティヴ・ヨガ」というヨガ・セラピーが取り入れ、徐々に広がりを見せています。PTSDの患者様はささいな刺激で自律神経系が勝手に興奮してしまったり、トラウマ記憶にまつわる身体感覚が勝手に想起されてしまうなど、自己の身体に対するコントロール感を失っていることが多いようです。ヨガは呼吸を通じて自律神経のバランスをコントロールしていきますので、ヨガ体験は自己の身体を取り戻していく助けになるかもしれません。

タッチフォーヘルス

米国のカイロプラクターであったジョージ・グッドハート博士は、現代解剖学の知識に東洋医学の陰陽五行理論などを融合させ、アプライド・キネシオロジーという学問の基礎を築きました。やはりカイロプラクターであったジョン・シー博士がキネシオロジーの技術を一般の人でも簡便に行えるようにしたのがタッチフォーヘルスです。TFTもブレインジムもキネシオロジーから大きな影響を受けており、これらのセラピーの源流に位置するとも言えます。ざっくり言うと、人体にある14の経絡(「気」の流れ)のバランスの乱れによって、心身の不調が生じると考え、それぞれの経絡に対応する筋肉を刺激したり、対応する特定のポイントをマッサージしたりすることで、バランスを取り戻していこうとする健康法です。現代医学の観点からは「原因不明」「精神的なもの」と片付けられてしまう身体症状に対しても効果を発揮することがあります。

ブレインジム

自らも学習障害に苦しんでいたポール・デニッソン博士が開発したエクササイズです。発達障害の方が、左脳と右脳の協調不全のために、正中(真ん中)を横切るような動きを苦手とすることに着目し、左右の脳の協調を促進するような簡単なエクササイズを含んでいます。キネシオロジーの考え方にインスパイアされた動きや、ヨガから取り入れられた動きもあり、誰でも気軽にできるのが特徴です。もともとは発達障害の方の学習効果を上げるために開発されたものですが、現在はビジネスマンやアスリートの能力向上を目的としても用いられています。「第4の発達障害」と言われるPTSDにおいても、発達障害と同様な神経ネットワークの協調不全が起きていると考えられ、ブレインジムは失われたバランスを取り戻すための助けになると期待されます。